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気楽!釣行 柴山陽三 金峰山川・千曲川釣行」 

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<旅&釣行> 金峰山川&千曲川(長野県川上村周辺)8/31-9/1(木・金曜日)

 夏の渓流というと標高の高いフィールドがなんといってもお勧め。緑深い森に分け入り、涼しい川風に吹かれながら流れに潜むイワナを狙ってゆくのは夏ならではの楽しみだ。そんな条件を満たすフィールドは全国各地に数々あるが、今回は首都圏からも2時間ほどでたどり着ける長野県川上村金峰山川をご紹介したい。村内で千曲川に流れ込むこの川は標高が1500m前後と高いことから夏でも涼しく、流れは穏やかで危険箇所もない。川へのエントリーも楽なことから、さまざまなレベルのフライフィッシャーが楽しめるフィールドだ。

 この川の魅力は数あれど、なんといっても周囲の森と景観が素晴らしい。白樺林が広がり、川はその間をほとばしるように流れてゆく。前人未到手付かずの大自然といった風情はないが、手垢まみれというわけでもない。川の周囲は森が広がり、ところどころレタス畑や民家が点在する。舗装路、林道合わせてかなり上流部まで道が続いているが、川に面している箇所はほんの一部。釣りの最中、走る車を目にすることはほとんどなく、川の上は静けさそのものだ。それでも退渓しようとすれば、簡単に道に出ることができるのがうれしいところ。ちょうど良い距離でつかず離れず川と道が平行しているのだ。

 これで釣り人が少なければカーティスクリークになるのだが、訪れる釣り人は多いほうだろう。渓流ガイド本などにも頻繁に紹介され、一時は「フライマン銀座」と呼ばれていたこともある。それでも流程が長いので、区間を選べば先行者を気にすることなく釣りをすることは可能だ。標高が高いからか時間帯による水温の推移も影響するようで、イワナの活性がころころ変わることも多い。朝一番から釣りを始めても徒労に終わることもあるから、それほど先を急ぐこともないだろう。ひとつ気をつけたいのが、川周辺に停まっている車のこと。人気河川だけあって、シーズン中、いたるところに駐車の姿を見ることができる。全部釣り人かと思うとぞっとするが、実はその多くがクライマーのものなのだ。金峰山周辺は岩登り、登山のフィールドとしても大人気の場所なのである。だから、クライマー、登山者たちも数多く訪れる。釣りをしていると川沿いの森の中に数多くの人の踏み後を見つけることができるが、その多くは対岸の岩壁へ訪れるクライマーたちのものであることが多い。停まっている車の数と川の混雑度が比例しないので留意しておくと良いかもしれない。

 そうそう肝心な川の話を。金峰山川の流れ。それは清冽だ。川の流域に民家が少ないことから、とても澄んだ川が流れる。釣り人の影すら川底にくっきり映えるのだから息を呑んでしまう。流域の岩が白っぽいこともこれを助長しているようで、太陽の光をいっぱい吸収し、流れは一層透明感が増してゆく。面白いのはイワナも白くなることだ。流れの中に泳いでいる姿はうっすら灰色に見えるその魚影も、実際釣ってみると洗われた砂のように白く、可憐だ。ヒレは限りなく透明に近く、白い線が縁を飾り、その繊細な淡い色合いにドキッとしてしまう。イワナ特有の模様も透明な肌に溶け込んでしまい、体側にあるオレンジ色の斑点がことさら印象的に映える。ヤマメと比べると男性的なイメージを持ってしまいがちなイワナだが、ここの魚はちょっと別扱い。優しい穏やかな表情のイワナたちが釣り人を迎えてくれる。フライが流れる清らかな流れ、浮いてくる美しいイワナ、見上げる白樺林、頬をつたわるひんやりとした川風……手の中の一匹にこれほど「夏」を感じることができる川はそうそうないと思う。

  当日は朝9時ごろ山梨の自宅を出発した。途中、山中湖で仲間の別荘に立ち寄ったから、実際川上村に着いたのはお昼をすぎたころだった。村内で蕎麦のランチを楽しみ、その後、ちょっと千曲川本流をのぞいてみた。千曲川は金峰山川への通過点なのである。

  川の水は少なめだったが季節柄訪れる人が少ないのだろう、イワナはのんびり流れの中で泳いでいた。のんびりついでにちょっとロッドを振るが、狙った魚は反応しなかった。この日差しのもとではどうやら夕方が良さそうだ。と思っていると雲行きが怪しくなってきたので退散。早々に本日お世話になる金峰山荘へチェックインした。

  金峰山荘は川上村が運営する宿である。山荘の周囲には廻り目平キャンプ場が広がり、ここも山荘の管轄。シーズン中には色とりどりのテントが立ち並び、まるで登山の前線基地といった雰囲気だ。宿泊客の多くが登山目的だと思うが、山荘といっても山小屋ではない。山奥の静かな民宿といったようすで、清潔感あふれる落ち着いた宿だ。部屋も広く、今回二人で使用するには十二分の間取りだった。お風呂も広くて、天井が高く、開放的。いつもちょうど良い湯加減で調節されている。温泉ではないが標高1500mの入浴はなんともさっぱりした気分になるもの。食事は贅沢なメニューこそないが、どれも丁寧に作られており、釣り旅の宿としては満足だ。レタスの生産量日本一で有名な川上村だけに、収穫期にはレタスがふんだんにサービスされる。朝採ったばかりのレタスはみずみずしく、しゃきしゃき感抜群!産地直送ならぬ現地直食だ。今回の夕食にももちろん登場してくれた。僕らはそれを存分に楽しみ、ゆったりお風呂でくつろぎ、すっかりふやけた後、部屋の窓を開け、川の音を楽しんだ。

 それにしても涼しい。標高1500m、外気温は16度ほど。先月7月に訪れたとき、都内は35度前後の灼熱地獄の中、ここは最高気温26度だった。冷たい流れに浸っているともう少し涼しく感じる。金峰の夏は快適の夏なのだ。

 さて早くも2日目。残念なことに明け方から雨が降り始めてしまった。時にかなり激しく降り、それはちょっと釣りに出かけるのをためらうほど。しかし、ふとんの中で聴く雨音はとても魅力的で、これを口実に再び僕らはふとんに入ってしまった。

  と言っても、いつまでも二度寝を楽しむわけにもいかず、チェックアウトの10時には宿を出た。雨はまだ降り続いている。「さてどうしよう」と思案していると後ろから英語で誰かが話しかけてきた。若い外人が「川上駅まで送ってくれないか?」と声をかけてきたのだった。話を聞くとアメリカ人の学生さんだそうで、クライミングが大好きとのこと。夏休みを利用し、金峰山周辺の有名な岩場にやってきたと言う。「海外から人が訪れるほどの人気なのか?」と正直びっくりした。確かに彼は相当のクライミング好きのようで、彼の指はとても太く筋が張っていた。それは熟練の職人のようなたくましさで、経験豊かなクライマーはみなこのような指になるものだ。釣りが一向に進まないのは困ったものだが、外人クライマーにヒッチハイクをお願いされるなんてなかなかない。雨も降っていることだし、彼を駅まで送ってゆくことにした。

  そんなこんなで気がつくともう11時を回っていた。雨は強さを増し、車道沿いに流れる川が次第に濁りだした。が、とても微妙な濁りだ。ドライフライはもちろん釣りにならないが、ニンフやウエットフライなら釣りになる。いや、むしろいいかもしれない。この時期の増水は夏の渇水で敏感になった魚の警戒心を解き、いい釣りが出来ることもしばしばだ。もちろん鉄砲水や激しい増水に注意しなければならないが、チャンスはありそう。しかし、今以上に濁ったら、ただの増水だ。いろいろと思案したが、川上駅まできたついでに千曲川本流を狙ってみることにした。ちょっとアンバランスのタックルだったが用意してきた3番ロッドに重めのウーリーバガーブラックを結び、キャストしづらいながらも流れを攻めていった。どうやら読みは正解だったようで紅茶色の濁りの中から魚が釣れてきた。フライをひったくるように引き込んでいったのは26センチのイワナ。その次には35センチ前後の美しいニジマスもヒットした。これは残念ながら足元の倒木に逃げ込まれ、ばらしてしまったがわずかな時間、十分釣りを楽しむことができた。

 幸いにもここで雨が止んでくれた。次第に川の水も引き、濁りも取れてきた。時計を見ると午後一時ほど。今度は金峰山川へ向けて、車を走らせた。

 早速金峰山荘の目の前から川に入ってみた。入渓は金峰山荘前から森を抜けたところにした。森の中の踏み後を適当に進んでゆくと必ず川に出ることができる。宿の部屋まで川の音が聞こえるぐらいの距離だから、迷うことはない。ここ周辺の流れは大きな岩が重なり、階段のようになっている。落差のある流れだが、適度な傾斜なので苦労することなくテンポ良く釣りあがることができる。それでも「雑な釣りに釣果なし」というのは過去の経験で痛感している。どの釣り場でも共通することだが「魚に存在を気づかれないよう釣りを進めること」がここでも求められる。そこで川岸に並ぶ大岩が役に立つ。ここに隠れて、ひょいとフライをキャストしてあげるのだ。すると流れの中から瞬時にイワナが反応してくる。次のポイントでもその次のポイントでも同じ。岩裏からちょこっとフライを投げ入れ、イワナを確認してゆく。その連続がこの川の釣りのテンポだ。まるで鬼ごっこをしているようで、なかなか飽きない。頻繁に釣れてくるサイズはそれほど大きくない。それでも十二分に満足できるのだが、もちろん大物もどこかに潜んでいるから侮れない。大岩が重なり合った流れには「大物が潜む場所」はいくらでも存在するからだ。でもそれには「日並がよい」という味方がつかないとうまく行かないのはどの川でも同じこと。反面、まったく魚の反応がないということも経験したことがない。5月中旬〜9月末のシーズン中なら飽きのこない程度にイワナたちがドライフライへ反応してくれるだろう。この日もわずか100mも進まないうちに何匹かのイワナと出会うことができた。フライさえ注視していれば、イワナがフライに食いつく瞬間は手に取るように見える。丁寧に流していれば、どこかしらから湧き出たようにイワナが現れる。その瞬間、相手を見つけた鬼のように小躍りしてしまう。そんな駆け引きも夏のイワナ釣りのエッセンスなのかもしれない。

 車からのアクセスも近く、素敵な宿があり、多くの人たちが静かに自然に触れようと集まるこのフィールド。いつも密度の濃い時間が釣り人を迎えてくれる。「夏の渓流に望むもの」すべてが金峰山川周辺には広がっている。

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2006.9.18